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デジタル変革

クラウド回帰は潮流か、条件付きの選択か

約5分 Info XM 編集部
深い青緑の階調で構成された抽象的な面

クラウドから撤退してオンプレミスに戻す、という主張は2023年の 37signals による発表以降、強い注目を集めている。ワークロード特性を検討せずに一般化すると、判断を誤る。撤退が経済的に合理的なワークロードと、依然としてクラウドが優位なワークロードは、条件を並べれば区別できる。

撤退事例に共通する条件

37signals が2023年に発表した AWS からの撤退は、Basecamp と HEY の運用データに基づく試算を伴っていた。年間コスト削減は数百万ドル規模と主張されている。数値そのものは同社の主張であって独立検証されたものではないが、公開されている推論の枠組みは検証可能だ。レガシー刷新プロジェクトと同じく、この種の判断は事後の公開情報から正確に検証するのが難しい。

同社のワークロードには一定の特徴がある。ユーザー数と負荷が数年単位で予測できる。地理分散はあるが数リージョンに限られる。突発的なトラフィックスパイクが少ない。データエグレスコストが継続的に発生している。この組み合わせは、クラウドの弾力性から得られる価値を最小化し、固定的な課金のオーバーヘッドを最大化する。

同じパターンは Dropbox の2015年 AWS 撤退にも見える。Magic Pocket プロジェクトとして知られるこの移行も、撤退時点で同社が安定した既存事業を持っていたことが前提になっていた。両社とも成長ステージの企業ではなかった。

エグレス課金という構造

大手クラウドプロバイダーのエグレス課金は、他のリソースと比べて割高な状態が続いている。ロックイン効果として批判されており、EU の Data Act などで緩和が進みつつあるものの、2024年時点では依然として撤退判断の主要因である。

動画配信、大規模データ分析、機械学習の学習データ移動といったエグレスの大きいワークロードでは、エグレス費用が総所有コストの相当割合を占める事例が公開技術ブログで報告されている。各社の推計であり幅はあるが、この構造ではオンプレミスや専用インフラを持つ経済合理性が急に高くなる。推論コストの議論と同じ計算構造だ。逆にエグレスが小さい内部業務システムや B2B SaaS では、この動機はほとんど働かない。

クラウドが引き続き合理的な場合

撤退ナラティブから抜け落ちがちなのは、クラウドが今も明確に合理的なワークロードが多数あるという事実である。

負荷の予測不能性が高い場合がひとつ。EC サイトのセール期、報道サイトのバイラル記事、新製品ローンチのトラフィックは、事前の容量計画では対応できない規模で変動する。ここでは弾力性が代替不能な価値を持つ。

地理分散が広い場合がもうひとつ。10リージョン以上でレイテンシを最小化する要件は、自社データセンター建設の資本支出と CDN 契約の複雑性を同時に要求する。

規制対応の負荷が大きい領域も残る。金融、医療、公共部門では、クラウドプロバイダーが提供するコンプライアンス認証に依存した運用が実質的に不可欠になっている。認証の取得と維持を自前で行うコストは、インフラコストの比較には現れにくい。

比較の前提が動く

オンプレミスとの比較は現時点のクラウド価格に基づいており、価格低下トレンドを無視している、という反論はある。コンピューティング単価が継続的に下がってきたのは事実だ。

ただし低下は標準的な VM 時間やストレージ単価に集中していて、撤退判断で支配的なエグレスや GPU 課金が同じペースで下がっているわけではない。価格低下が自組織のワークロード成長で相殺されることも多い。判断すべきは現時点の損得ではなく向こう5年のコスト曲線の傾きだが、両方の傾きを公開情報から正確に推定する方法はない。

結局のところ、撤退すべきかという問いはワークロード特性の分析なしには答えられない。撤退成功事例に共通する条件と自組織のワークロードを突き合わせるところから始めることになる。この照合を飛ばして他社事例を一般化すると、逆方向の失敗を招く。安定期のワークロードにクラウドを使い続けて割高になるか、成長期のワークロードを撤退させて弾力性を失うかのどちらかだ。

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